"くすりや"まめ太の処方箋

地方の病院で"くすりや"やってます

【まわるまわるーよ】入院のくすりって使い回しなんだよ!《一包化のインシデント篇》【くすりはーまわる】

一包化の誤充填によるインシデントのニュースがありました。

 

https://www.ncnp.go.jp/hospital/news/2021/867.html

 

これを見て、くすりや(病院)ではない方は「???」よくわからないと思うので説明します。

 

一包化(one dose packaging;ODP)とは薬を飲みやすいように用法に合わせて分包することです。若い方は馴染みがないと思いますが、薬の量が多くて飲むのがわけわからなくなってくるジジババさん調剤薬局でよくやるやつです。他にも精神科の患者さんなんかも多いですね。

 


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ニュースになった国立精神医療センターは「一包化した薬が不要になった場合、廃棄するルールになっていたにも関わらず、機械に戻したら充填を間違えた」ということです。

 

まず、(調剤薬局では基本的にないと思いますが)病院では「返品」があります。これは、入院中は何日分かずつ調剤するのですが、一旦病棟へ渡した後に処方変更や中止になり薬が薬剤部に戻されることです。そしてこの返品、基本的にどこの病院も使い回してます!

 


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「えぇー!入院中の薬って新品じゃなかったの!?」と思われた方、そうです、新品のときもあるんですが、基本的には返品を使い回しています。これは、使わなかった薬‥ということは患者さんから費用を徴収できません(※DPCとかそういうのはややこしくなるので置いときます)。なので「病院の資産有効活用」の面から再利用されています。(入院の返品についてはまた別記事を書きます)

 

 

ここで問題になってくるのが「一包化」の処方です。これはPTPシートをめくって分包しています。

「見た目じゃわからなくね???」


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↑実際の一包化した薬の一部です。

 

どれを見ても白いクスリ、もちろん刻印(薬には基本的に全て鑑別用の刻印のマークやら文字が入ってます)を見て分別すればいいんでしょうが、間違えるリスクがめっっっちゃくちゃ高いです。さらに、一旦シートむき出しにしてるから品質もよくわからない。ということで沼の底病院では今回のニュースになった国立精神センターと同様、一包化した薬品の再利用はせず破棄するというルールになってます。(※ただし、沼の底病院は高額薬品はそもそも一包化しないです)


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しかしながら、一包化を多く行っている療養型病院や精神科病院は一包化した薬品を廃棄してしまうと病院の資産の損失が大きい。そうでない病院でも近隣の済●会グループは一包化も分解して再利用してるみたいですが。こういう病院は何日分か集めて鑑別して再利用しているそうです(学会発表で拝見しました)。実は「一包化した薬を鑑別して種類ごとに分けるマシン」も最近は販売されているのですが、それなりに高価なので導入するのもそう簡単にはいかないみたいです。

 

www.youtube.com

 

 

「っってかそもそも調剤したときにちゃんと監査して(見て)ねーのかよ!!」と思われそうですが、見てますよいちおう。ただ、(これは病院に限らず調剤薬局でも)全て1つずつ刻印まで見るというルールの施設もあれば最初だけ刻印を見てあとは数だけ‥なんてとこもあるそうです。この監査を機械化しようと、最近TVCMでFUJIFILMが「一包化監査マシン」をよく宣伝しています。

 

https://www.fujifilm.com/jp/ja/healthcare/pharmacy-and-health-support/pharmacy_assistance/proofit_1d

 

他にも調剤機器メーカーから監査マシンは販売されていますが、これもまた高価なのでなかなかそう簡単には導入できるわけでもない。やはり所詮「人間のなすこと」注意を払っても過誤が起こることがある、かといって全て機械に任しても「機械がエラーを起こしたら誰の責任?」となり難しい問題だと思います。

 

 

 

実は某日、薬局長が「調べてみたら一包化した処方がいちばんインシデントが少なかった!だから、どんどん一包化したらいいんじゃないか(はぁと)!」と言い出したんですよね。


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‥いやー、おそらくそれは「たとえ間違っていても見た目じゃわからないからスルーされている可能性もあるのでは?」と思いますね。通常のPTPシートの状態なら万が一薬を間違えたとしても看護師さんが投薬前に気づくかもしれない。けれどむき出しにして一包化してしまうと見た目じゃわからないからかもね‥と個人的には思うんですが‥きっと今回の精神医療センターの件は氷山の一角で間違っていても気づかなかったり、インシデントが発覚してもここまで公に表にしていないと思います。


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ここまで「一包化が危ない」みたいなことを書いてしまいましたが、一包化は「服薬アドヒアランスが向上する」という大きなメリットがあります。薬が多過ぎてわけわかんなくなっちゃう、手が思うように動かないって人には一包化は適切に服用する手助けになる重要な手段の一つです。

 

 

仕事である以上、完璧を貫く必要があるのですが、やはり人間がやることである以上ゼロリスクは厳しいです。機械を上手く利用して安全を提供していきたいですが、この一包化に関しては調剤過誤だけでなく、シートから取り出した後の安定性や一時休薬に関しても考えるべき課題が多いと感じます。

 

今日も読んでいただきありがとうございます。またのご訪問お待ちしています!